ダイダラボッチ(16枚)

ダイダラボッチは歩いていた。自分がどこから来てどこへ行こうしていたのか既に彼には判らなくなっている。でも自然と足が前へ向いた。 あたりは見渡す限りの草原で、間もなく夜が明けようとしている。地平線から陽光が差し、草原を赤く染める。前へ動かす足…

腕(63枚)―執筆中―

その年、人の腕を6本折った。 何も武勇伝をひけらかそうというというわけじゃない。この話にはちっとも武勇的な要素はない、ひとかけらも。 1年間休学して日本中をバイクで1周する旅に出た。軍資金はわずかであり、金が底を尽きかけると一つの町に留まり…

北へ行きたい

もうすでに半ば忘れられつつあるが、島崎敏樹は戦後日本・精神病理学の草分け的存在である。 彼は著書『生きるとは何か』(岩波新書)の中で、ある症例として「心が枯れる病」にかかった女性を紹介している。 私が心惹かれたのは、その女性が少女期に書いた…